11.本当に望むこと




「ねえ、先生、早く返事聞かせてよ。」

耳元で囁かれるのと同時に、熱い塊が一層深く分け入ってきて、祥太郎は広い背中に爪を立ててしまう。

「あ、あ、…や…っ。」
「いい返事聞かせてくれないと、…もっと酷くしちゃいそう。」

荒い息を伴う囁きは、言葉の割には酷く丁寧に、祥太郎の中をかき回している。
押し開かれた太腿の内側を熱い手に撫で回されて、祥太郎はすすり泣いた。

「…っつ、先生、締まりすぎ。…挑発してんの?」
「そ…な、んあ…っ。」

深く膝を折り曲げられると腰が浮く。その上にのしかかるように体を預けた直哉は、祥太郎を虐めるように、その一点ばかりを責めてくる。
深い出し入れの度に、粘り気のある水音が響く。オイルのせいだけでないその音をこれ見よがしに聞かされて、祥太郎は混乱するほど恥ずかしくなる。

「…んな、ところ、ばっかり…や…っ。」
「へえ…まだ、そんなこと言えるんだ。」

含み笑いが耳朶をくすぐって、抱え込まれた足がますます深くなる。
唇が、祥太郎のそれをかすめて降りて行き、鎖骨の辺りを熱くした。

「は…んん…っ。」

ぞくりと快感の波が這い上がってきて大きく背中を反らしたら、いたずらに太腿を這い回っていた手が、キュッと祥太郎のシンボルを握りこんだ。

「や…やぁ…っ。」
「一人でイこうとしてるでしょ。」

出口を閉ざされた焦燥感にむせび泣く祥太郎をからかうように、余裕ある笑いが降りてくる。
そうして祥太郎を塞き止めるのに、直哉は意地悪く中をグズグズとかき回し、先端をクチュクチュとこね回すのだ。

「や…も…出る…っ。」
「…いい声…。」

一人ごちる直哉は、まだ祥太郎を解放する気はないらしい。
更なる刺激に、祥太郎は眦から涙が溢れるのを感じた。よすぎてどうにかなってしまいそうだ。
直哉は祥太郎より5つも年下のくせに、性技には祥太郎よりよっぽど長けていて、いつでも祥太郎を振り回してくれる。

「も…おね…が…から、直哉…くん…っ。」
「もっと…呼んで。凄い興奮する…。」
「あぅ…ああっ。」

縋れば縋るほど苛まれる。そうして振り回される自分が厭わしいのに、直哉の満足そうな声を聞くとますます体が熱くなるのを、祥太郎はとめる事ができない。

「は…やく、ちょ…だい…。」
「ねえ…、先生、さっきの、答え。」

不意に深く祥太郎を掻き抱いて、直哉は真剣な声を出す。
内側から突き動かされる熱にぼうっとしながら祥太郎は直哉を見上げた。

「俺と一緒に暮らしてよ。そうしたら、毎晩でもこうしてずっと可愛がってあげる。」
「あう………それは…っ、んあ…っ。」

卑怯だと思う。祥太郎のガードが緩むこんな時を狙って、直哉は祥太郎に問いかけるのだ。
今なら、どんなことを言われても、頷いてしまいそうな祥太郎を知り尽くした、直哉の薄笑い。

祥太郎は手を伸ばして、直哉の背中に再び爪を立てた。同時に、頼りなく空中に浮いていた左足を、直哉のたくましい足にしっかり絡める。右足は先ほどから直哉の腕に絡め取られて、自分の胸に押し付けられていた。
祥太郎が全身でしがみつくと、直哉の滑らかな背中が引き締まるのが感じられる。

「おね…がい、おね、がい、だから…。」

精一杯首を伸ばして、直哉の耳に直接言葉を吹き込むように喋る。
直哉は、祥太郎が感極まって出す、この掠れた声が、ことのほか好きなようだった。

「直哉…君の、熱いの、一杯、出して…。
僕の、中を、直哉君の…で、ムチャクチャに、してよ…。」

半分は哀願で、半分は策略だ。
祥太郎からせがむこんな台詞を、直哉は聞き逃すことはできないはず。
思ったとおり、直哉の腕が強くなった。反り返る背中がミシリと鳴りそうな強い抱擁に、祥太郎は精一杯抱き返すことで答えた。

「先…生…っ!」
「あ…うあ…っ。」

暑い息遣いが祥太郎の喉下に吹きかけられる。
体の奥底に熱い衝撃が叩きつけられて、祥太郎は悲鳴を上げた。



汗ばんだ額に唇が押し付けられて、祥太郎はそっと目を開けた。見下ろしている直哉は、淋しげな顔をしていた。

「先生…ずるい。」
「……直哉君こそ。」

少し笑って腕を伸ばす。直哉は素直に顔を寄せて、唇をついばんでくれる。

「こんな時にそんなこと聞かれたって、答えられるわけないでしょう。」
「こんな時でなければ、真剣に聞き入れてくれないくせに。」
「だって…。」

祥太郎は目を伏せた。直哉の大きな手は、祥太郎の背中を飽きることなく撫でている。

「…先生は未だに、年の差とか、考えているんですか。」
「それは…しょうがないじゃない。実際僕は君より5つも年上なんだから。
君はやっと二十歳で、これからもっといろんなことに出会えるはずなんだよ。」
「…先生だって高々25じゃないですか。可能性なら俺と同じぐらいあるはずでしょう。
それとも、先生は俺以外の男を選ぶつもりでもあるんですか。」
「まさか、そんなことはないけれども。」

すねた顔をする直哉は、祥太郎よりよほど大人びた風貌だけれど、時折こうして駄々をこねる。

祥太郎はいつか自分の存在が直哉の重石になりそうで、それが一番怖いのだ。
しかし、それを素直に言うと、それがまた直哉の重石になりそうにも思えてしまう。

「僕は…お互いが身軽でいられれば一番いいと思っているのかもしれない。」

祥太郎は手を伸ばして、直哉の前髪を掻き分けた。涼しげな目元が前髪に遮られて見えづらいのは、なんとももったいなかった。

「こんな関係がずっと続いていくんじゃだめかなあ。週に1度くらい抱き合って、一緒に過ごすだけじゃ…だめ? 君にだって生活があるし、僕だって…学校も忙しくなるんだよ。」

「………毎日だって可愛がってあげるっていうのは…俺の理想で、予定じゃありません。
俺が本当に望んでいるのは、手を伸ばせばいつでも祥先生に触れられる位置に、祥先生がいてくれることだけです。
俺が独り占めしたいのは、先生の笑顔で、体じゃありません。」

思いがけず真摯な言葉が返ってきて祥太郎は思わず言葉を呑んだ。
直哉の目は、怖いくらい真剣だった。

「それでも…祥先生が俺より学校の方が大事だって言うのなら…俺は祥先生の意思を尊重しますよ。
無理を言って、嫌われてしまうのは、…今の俺には一番応えることだから。」
「あ、あの…直哉く…。」

するりと腕が解けて、直哉が立ち上がった。高い位置から見下ろされて、祥太郎は怯んだ。いつもなら、夜明けまでみっしりと、抱き合って過ごすのに。

直哉は悲しげな顔をして、バスルームに向かった。
怒らせてしまったのだろうか。祥太郎はひやりと胸が冷えるのを感じていた。





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